大会直前の視聴者、そして漫才師の熱量を上げる仕掛けとして欠かせないのが、プロモーションムービー(PV)の存在です。
現在のドラマチックなスタイルが確立されたのは、2019年がきっかけでした。
この年の放送日が12月22日、映画『君の名は。』の楽曲「前前前世」が流行した直後ということもあり、「クリスマスの前前前夜」という文脈でRADWIMPSとのコラボレーションが実現。この挑戦的な試みが大きな反響を呼び、翌年からABCテレビが蓄積してきた豊富な密着映像をクリエイティブチームが物語として編集する、現在の「ドキュメンタリー・スタイル」が定着されたのです。
M-1のPVには、徹底したこだわりがあります。それは、漫才のネタ時間と同じ「4分間」という制約の中で構成されること。
これまでも、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』、日食なつこの『ログマロープ』、ウルフルズの『暴れだす V』、宮本浩次の『昇る太陽』といった名曲たちが採用されてきました。
M‐1を想定して作られたわけではない曲が、不思議とその年のM‐1にハマる瞬間がある。その「偶然の照らし合わせ」もまた、ファンの楽しみの一つとなっています。
2025年大会のPVには、ORANGE RANGEの『ミチシルベ ~a road home~』が採用されました。
「予想不可能な結果の先にある景色へたどり着けるのは、自分自身の『道しるべ』を信じる者だけ」というメッセージを、混沌とする時代の中で自らの正解を証明しようとする、現代の漫才師たちの姿に重ねたことが選定の理由なのだそうです。
※21代目王者となった「たくろう」の名前が、ロゴへの切り替わりと同時に印象的に呼ばれる冒頭(0:25〜)のシーン。大会後に見直すと、まるでその優勝を予言していたかのような奇跡を感じずにはいらません。これも偶然の照らし合わせの一つかもしれませんね。
数百時間に及ぶ予選からの密着映像を4分間に凝縮し、名曲とシンクロさせて編集する。視聴者はこの映像を通じて、芸人が背負ってきた背景や葛藤を短時間で追体験します。この「文脈の共有」があるからこそ、私たちが益々大会に「没入」していくための仕掛けの一つになっていると言えるでしょう。