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高木 桂佑

M-1グランプリはなぜ熱狂を生むのか? ① 芸人の生き様をコアに据えたブランディングの力

Brandingブランド設計はじめてのブランディング

テレビ離れが叫ばれる昨今において、放送後も世間の話題の中心であり続けるコンテンツ「M-1グランプリ」。

単なるバラエティ特番の枠を超え、いまや大きな「熱狂」を生むブランドとなったM-1。
なぜ、私たちはこれほどまでに漫才師たちの4分間に心を震わせ、没入してしまうのでしょうか。
ブランディングに携わる者として、M-1の軌跡を紐解くと、そこには2018年を境にした「ブランド体験の再設計」がありました。

本記事では、一ファンとしての視点、そしてブランディングの視点から、M-1がいかにして「芸人の生き様」をブランドの核に据え、熱狂の構造を作り上げたのかを考察します。

はじめに

私の周りはお笑い好きの友人がたくさんいます。
毎年12月が近づくと、みんなクリスマスなんてそっちのけで、口を開けばM-1の話ばかりです。

私がお笑いに魅せられたのは、2021年のこと。
芸人のラジオを聴いたりYouTubeを見たりするのは元々好きでしたが、ルミネtheよしもとで生の漫才を浴びたあの日、一気に世界が変わりました。

2021年は、ちょうど映画『浅草キッド』が公開された年でもあります。
目の前の人を笑わせることに人生をかける、その生き様が、たまらなく「かっこいい」と感じられずにはいられなくなったのです。

それ以来、M-1は私にとって「食い入るように見る」特別な大会になりました。
一方で、日々ブランディングについて考える者という立場として見ると、単なる「お笑い番組あるいは大会」以上の何かを感じずにはいられません。芸人の夢を背負った、一貫性のある「ブランド体験」。そして、毎年感情を揺さぶられる広告。

M-1グランプリという熱狂を生み出すブランドは、一体どのように築き上げられたのか。
その裏側を紐解いてみたいと思います。

M-1グランプリとは

最初に、M-1グランプリの概要を整理します

M-1グランプリは、2001年に「漫才への恩返し」という島田紳助氏の強い想いから立ち上がった大会です。朝日放送テレビ(ABCテレビ)と吉本興業が共同で主催し、結成15年以内のコンビであればプロ・アマ問わず参加できる、日本最大級の漫才競技大会となっています。
※第10回大会までは、結成10年以内のコンビが出場資格でした。

大会の歴史(公式サイト)

出場資格が15年までの若手とされているのは、若手が漫才に見切りをつけるためのハードルをつくること、つまり、15年やって芽が出ないなら芸人を辞めることを考える程の残酷なまでの真剣勝負の場をつくるため、とも言われています。

一度は2010年にその歴史に幕を閉じましたが、2015年に復活。現在は、年末の風物詩として国民的な注目を集める大会へとさらなる進化を遂げています。
近年ではその出場者数も爆発的に増加し、2025年大会では過去最多の1万1521組がエントリーするなど、まさに漫才界にとって最高峰の権威を持つ大会となっています。

ブランドの転換点

M-1グランプリがテレビ離れが叫ばれる今もなお、圧倒的な熱狂を生み出し続けている理由は、単に「面白い漫才を放送している」からだけではありません。
そこには、2018年を境に行われた、ブランド体験の再設計がありました。


2018年、プロモーションチームに電通のクリエイティブチームが本格参画したことで、M-1のナラティブ(物語)が書き換えられていくこととなりました。
それまでの「面白い芸人が集まるお祭り」という見せ方から、「一組の芸人の人生が変わる瞬間を、視聴者が目撃する」という体験へのシフトです。

M-1で優勝をしたコンビは数週間の間、十分な睡眠時間が確保できないほど番組出演やオファーが殺到する、といったイメージがありますよね。
M-1に出場する前と後での、人生の対比。
この「前後」があるからこそ、優勝後の忙しさを「変化」と誰もが認識することができるのではないでしょうか。

 

折しも2018年は、当時20代の霜降り明星が史上最年少で優勝し、「一夜にして人生が逆転する」ドラマが描かれる展開となりました。
このリアルな物語が、視聴者に「芸人=面白くて、かっこいい」というイメージを強烈に植え付けるきっかけとなったのです。

世界観をつくり・伝える「キャッチコピーとメインビジュアル」

M-1の世界観を統一し、広く伝播させているのが、2020年から定着したメインビジュアルとコピーの存在です。ここでは、総合演出の想いとクリエイティブがどのように融合しているのかを紐解きます。

 

 

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キャッチコピーの深化

2018年のキャッチコピーは「人生、変えよう。」でした。
これは出場者である芸人たちの目線で語られている言葉として受け取ることができます。

しかし、2021年に策定された「人生、変えてくれ。」という言葉で、言葉の主語は視聴者や運営、関わる全ての人へと広がりました。

推し文化に乗じて「(自分が応援する芸人に)人生を変えてほしい」と願ったり、出場者である芸人が、自分自身を奮い立たせる言葉にもなったり。このコピーは、視聴者を単なる「観客」から、芸人の人生の変化に立ち会う「当事者」へと変容させる力強いフックとなり、現在も大会を象徴する言葉として使われ続けています。

 

 

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ビジュアル・アートディレクションの変遷

ポスターのビジュアルも、既存のバラエティ番組の常識を覆すものでした。
明るく華やかなセットでの笑顔のシーンなどではなく、劇場のひんやりした空気、出番直前の震えるような緊張、ネタ中のほとばしる汗、といった、舞台裏のシーンや質感を重視したアートディレクションが施されています。

これまでのお笑いが持つイメージに固執せず、M-1を芸人人生を賭けた大会、と定義し直すことで、泥臭くも美しい「生き様」を全面に押し出す一貫したトーン&マナーが、M-1を他の賞レースとは一線を画す「かっこいい大会」へと昇華させたのではないでしょうか。

 

 

さらに、2025年の第21回大会からは、ブランドの象徴であるロゴのデザインが刷新されたことも見逃せません。
それまでの赤と金を基調とした王道のイメージから一転、新たに採用されたのは「アメシストカラー」でした。この色調への変更には、コンセプチュアルな意図が込められています。

 

 

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2024年大会、令和ロマンがトップバッターから2連覇するという衝撃的な幕切れを経て、運営側は「M-1のひとつの時代が区切りを迎えた」と定義しました。

ならば、次の10年を作るための「脱皮」「再生」「生まれ変わり」を宣言するべく、選ばれたのがアメシスト(紫水晶)の色だったのです。

アメシストには「生まれ変わり」という宝石言葉があります。ロゴという「ブランドの顔」の色にその意味を託すことで、出場者や視聴者に対し、M-1自体が過去の自分たちを脱ぎ捨て、新たなステージへと進化し続けるという決意を込めたのではないでしょうか。

芸人たちの生き様を追体験させるプロモーションムービー

大会直前の視聴者、そして漫才師の熱量を上げる仕掛けとして欠かせないのが、プロモーションムービー(PV)の存在です。

 

現在のドラマチックなスタイルが確立されたのは、2019年がきっかけでした。

この年の放送日が12月22日、映画『君の名は。』の楽曲「前前前世」が流行した直後ということもあり、「クリスマスの前前前夜」という文脈でRADWIMPSとのコラボレーションが実現。この挑戦的な試みが大きな反響を呼び、翌年からABCテレビが蓄積してきた豊富な密着映像をクリエイティブチームが物語として編集する、現在の「ドキュメンタリー・スタイル」が定着されたのです。

 

M-1のPVには、徹底したこだわりがあります。それは、漫才のネタ時間と同じ「4分間」という制約の中で構成されること。
これまでも、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』、日食なつこの『ログマロープ』、ウルフルズの『暴れだす V』、宮本浩次の『昇る太陽』といった名曲たちが採用されてきました。
M‐1を想定して作られたわけではない曲が、不思議とその年のM‐1にハマる瞬間がある。その「偶然の照らし合わせ」もまた、ファンの楽しみの一つとなっています。

 

2025年大会のPVには、ORANGE RANGEの『ミチシルベ ~a road home~』が採用されました。
「予想不可能な結果の先にある景色へたどり着けるのは、自分自身の『道しるべ』を信じる者だけ」というメッセージを、混沌とする時代の中で自らの正解を証明しようとする、現代の漫才師たちの姿に重ねたことが選定の理由なのだそうです。

※21代目王者となった「たくろう」の名前が、ロゴへの切り替わりと同時に印象的に呼ばれる冒頭(0:25〜)のシーン。大会後に見直すと、まるでその優勝を予言していたかのような奇跡を感じずにはいらません。これも偶然の照らし合わせの一つかもしれませんね。

 

数百時間に及ぶ予選からの密着映像を4分間に凝縮し、名曲とシンクロさせて編集する。視聴者はこの映像を通じて、芸人が背負ってきた背景や葛藤を短時間で追体験します。この「文脈の共有」があるからこそ、私たちが益々大会に「没入」していくための仕掛けの一つになっていると言えるでしょう。

 

おわりに

本記事では、M-1グランプリがいかにして「芸人の生き様」をブランドの核に据え、一貫したブランド体験を作り上げてきたのかを考察しました。

2018年からのリブランディングを起点に、「お笑い」というエンターテインメントを「人生を懸けた真剣勝負」の物語へと再定義したこと。
そして、キャッチコピー、メインビジュアル、プロモーションビデオといったあらゆるクリエイティブが、制作現場と視聴者の双方に対して「M-1とは何か」を定義し直す仕掛けとして機能していたことが、熱狂を生むブランドとして今日も続いている大きな要因と言えるでしょう。
(もちろん、人生をかけて漫才を続ける芸人、お笑いを愛し、M-1を愛する、制作に関わる方々の熱い想いこそが、熱狂の中心にあることは大前提として…。)

 

私たちcommonoも、ブランディングにおいて最も大切なのは、こうした「本質を基盤にしたブランド戦略」であると考えています。「なぜ存在するのか」「どのような価値を提供するのか」という問いを出発点に、鮮明なポジショニングを確立していく。M-1がそうであったように、揺るぎないビジョンが伴ってこそ、人の心を動かすブランドは生まれます。

私たちは、ブランドの種を確かな熱狂へと育て上げるプロセスを、伴走者として支え続ける役割を果たすため、自社事業運営の視点を活かした企画・戦略立案から、マーケティング、クリエイティブ開発、PRまでをワンストップでサポートしています。

 

Branding

 

さて、ブランド体験について深掘りしたM-1グランプリですが、戦略を築き上げるだけではこれほどまでのうねりは生まれていないはず。
構築したブランドをいかにして広げ、ファンを巻き込み、持続可能なビジネスモデルへと昇華させたかという「マーケティング戦略」、つまり戦術も重要です。

続く第2回では、【マーケティング編】として、若年層へのアプローチやYouTubeを活用した「プロセスの共有」、そしてテレビの枠組みを超えた新たなスポンサードの形について深掘りしていきます。

Written by

高木 桂佑 Keisuke Takagi

director

1997年 釧路生まれ札幌育ち。地域に関わる企画の仕事がしたいという思いで、函館の地域プロデュース会社に入社し、事業企画や店舗の立ち上げ、コミュニティイベント運営などを担当。約4年間の勤務後、半年間のフリーランス期間を経て、2025年にcommonoに参加。以降ディレクターとして、主に企画のプランニングやディレクションなどを担当している。

Q1. commonoに参加した理由
デザインに関するコンセプト等の設計だけではなく、企画・戦略立案からマーケティングプランニングまでを当たり前のように考える社内カルチャーに面白みを感じたから。
Q2. わたしの偏愛
パスタと音楽が大好きです。アルミフライパンを持っており、週に2~3回はパスタを作ります。音楽はオルタナティブ・ロックが好きで、ライブにもよく行きます!
Q3. 今後commonoというフィールドでやりたいこと
北海道のクリエイティブを産業化していくために、会社の垣根を超えて学び・つながり・高めあう。そんな文化を札幌の街につくっていきたいです。

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