深層心理学(1)
Thoughts

2016.12.13

深層心理学(1)

札幌はここ数日、記録的な量の雪が降り続いています。無音で降り続け、翌朝札幌人を唖然とさせる雪。昔、札幌を代表するヒップホップアーティストが、「札幌には1年の半分雪で覆われる季節があるので、内部にふみこんだリリックが書ける」というようなことをおっしゃってましたけど、そういう視点からすると、デザイナーにとっても視線を内側に向ける事が出来る熟成期といいますか、いい季節なのかもしれませんね。
人間の内部に踏み込むため、というわけではないのですが、また短いシリーズとして、深層心理についての記事を投稿したいと思います。
西洋の知識人の世界では大変長い間、「意識」と「自我」とは同一視されてきました。デカルトの「我思う、故に我あり」という言葉に代表される通りです。自分の意識しているものから自分というものはなりたっており、それによって定義されるのだ、という考え方です。
ヒステリーやてんかんとよばれるた神経症は、あくまで神経の病気であり、化学的に解決すべきものと考えられていたのです。しかしヒステリーの患者の脳には、見て分かるような器質的な異常は存在しないように思えました(一方、当時痴呆症と言われていたアルツハイマー症などでは、脳にはっきりと分かる萎縮が確認できます)。
19世紀後半に、神経学者ジャン=マルタン・シャルコーは、ヒステリーの治療として、患者に催眠をかけるという手法を取り入れ、それによって症状が現れたり消えたりするのを一般公開しておりました。その様子を見たジグムント・フロイトは感銘を受け、神経学者から精神科医に転向します。開業医として実験を重ねていくうちに、ヒステリーに関するある法則を見いだします。
フロイトは1895年、ヒステリーの原因が幼少期に受けた性的虐待の結果であると発表しました。患者のほとんどは性的虐待の記憶がありませんでしたが、対話をし、幼少期の記憶をたどるとそれを語りだし、そして記憶が言語化されると身体症状が消えた、ということです。今日ではフロイトが行った精神分析は精神医学の主流ではありませんが、症状はPTSD、治療法はナラティブセラピーと呼ばれ、今も実践され続けています。
さて、もし患者の意識になかったものによって精神症状がおこり、それを表出させることによって治療が可能だとしたら、「我思う、故に我あり」とは限らないことになります。フロイトは自分たちが「意識できている」部分は、本来存在している意識の表出している部分、氷山の一角にすぎず、意識の大部分は水面下、つまり本人も知覚出来ない状態に保たれていると考えました。これが無意識、また深層心理と呼ばれ、これらは普段誰にも知覚できないものですが、「夢」によって表出するとしました。
「正常」な人も「異常」な人も、実は同じ無意識的な原理で動いているのだというフロイトの考え方は当時の常識から180度異なる見解で、前述しましたが、マルクス、ニーチェとならんで20世紀の文化と思想にもっとも大きな影響を与えた人物の一人と評されました。しかし、人格形成をすべてリビドー(広義的な性欲)で説明しようとする一元論が、ユダヤ人で無神論者という当時抑圧されていた彼自身背景や金銭的、社会的に不遇であった彼自身の偏りに影響されているという批判、また研究対象が上流階級の女性という、性的に抑圧された層が中心であったことから、理論自体は高く評価されているわけではないようです。
ただし、人間の心の力作用という意味の「リビドー」は、単なる性欲ではなく、いわゆる「愛」という力と考える研究者もおり、唯物論が支配的な当時の状況で、心理に深く切り込んだ視点をもったということは、高く評価されるべきだと思います。
もっともこの「深層心理」の存在が西洋で言われ始めたのが19世紀後半であって、東洋思想の中では4世紀後半には仏教の唯識思想が確立されており、「唯識三十頌」では、前五識(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)と言う意識のほかに無意識とも解釈できる末那識(まなしき)、阿頼耶識(あらやしき)という二つの深層意識層が想定されていたようです。
さて、フロイトのこの理論から、人間の根底に流れる文化的な共通項を見いだそうとする分析心理学が派生します。これを提唱したのがスイスの精神科医・心理療法家であった、カール・グスタフ・ユングです。

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