深層心理学(2)
Thoughts

2016.12.21

深層心理学(2)

こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。
ユング心理学についての2話めになります。とはいっても前回はフロイトについてしか書いていないのですが…。
フロイトの提唱した精神分析学は、批判も多かったものの、20世紀の思考の潮流を決定付けたと言って差し支えないと思います。人間には自分でも意識していない領域があり、それはある意味で意識している部分よりも強烈に自我を形作っているのではないかという発想は、そのインパクトという意味においてはコペルニクスの地動説やニュートンの万有引力に匹敵する程の革命的なものだったのでしょう。
その潮流を汲み、思想体系をさらに発展させたのがスイス人の精神科医・心理学者、カール・グスタフ・ユングでした。ユダヤ人であったフロイトに、同胞ではないスイス人の理解者が現れたことは非常に都合がよく、また精神科の臨床医としての方向性も似通っていたところから、この二人は非常に深い親交をもつようになります。
しかし、当時の心理学はまだ萌芽期と言ってよい状態で、フロイトやアドラーの提唱した節に、ユングは不満足を感じるようになります。フロイトは人間の行動の動機は突き詰めていくと「性」であり、一方アドラーはその根源を「権力」としました。ユングはそのどちらの説も人間共通の心の源泉とは見なしがたく感じていました。端的にいうと、それらの説はどちらも、提唱者個人の志向が強く反映されすぎており、人間に共通する動機というには不十分であると考えました。
また、無神論を強く唱えたフロイトに対し、ユングは神の存在を現時点では結論することができないと、保留する態度をとりました。ユダヤ人であったフロイトと、プロテスタント牧師の息子として育ったユングとの間に、この視点の違いがあったことは個人的には興味深いものを感じます。
いずれにせよ、このような方向性の違いから、ユングはフロイトと袂をわかち、独自の道を進むことになります。この時のユングは大変感情的に不安定な状況に陥り、自分自身を精神病なのではないかと疑う程になりました。そして、自分の心理状態を確かめるため、自身の患者に施したのと同じ診療を開始します。つまり、無心に絵を書き、心象風景を分析することにしたようです。
彼の書いた絵は多くの場合、たくさんの円を配置した模様のようなもので、正方形もその中に含まれていました。
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精神的に安定した状態だと形は真円に近くなり、心が乱れているとうまく描けなかったそうです。やがてユングはそれが自分の世界観に通ずる(対称性や循環を示唆する)ものがあること、そして自分の患者にも自由に描かせてみたところ、自分の描いた図形と酷似した、円や正方形を中心とした図形を描くことに気づきます。
そしてユングは自分の描いたその図形が、仏教の世界観を示す図である曼荼羅に共通するものである事を発見し、自分の描いた図形を「マンダラ」と呼びました。人類共通の宇宙観を示すイメージが、そこに存在すると考えたのです。
「曼荼羅」の”manda”とはサンスクリット語で「本質」を意味し、”la”という接尾辞には「得る」という意味があります。曼荼羅とは本質や真理に到達(あるいは回帰)することを著す図表だといえるでしょう。人間全てに共通する本質を求めたユングが辿り着いたのがこの図形であったことは、面白い偶然と言えると思います。そしてもちろん、ユング本人にとっては、偶然以上のものをあらわす一致でした。これをユングは、個人を超え人類に共通している「集合的無意識」と考え、その研究に多くの時間を割いていきました。
ユングにとっての深層心理の様相とは、男性と女性、聖なるものと俗なるものその他様々なの相反する二つの要素の均衡でした。それが世界を統べる真理を中心に同心円状に、線対称になり循環していくイメージは、まさにユングの言わんとする世界のイメージにきれいにはまったことでしょう。
唯一のものを中心に据えた、同心円のイメージ、相反するふたつのものの統合、これがユングの提唱した人間全てに共通する原風景でした。この発想はcommonoのイズムにも通ずる発想かと思います。commono代表、矢野がそのイズムについて書いた記事が以下にありますので、是非確認してみて下さい。ユングの預言した人間共通の原風景があるのかもという、不思議な一致が見えてくる気がします。
Vision
さて、この曼荼羅ですが、その図形や対称性も重要ですが、その人の考え方に違いをもたらすのは、「その中心に何を据えるか」ということかと思います。ユングは上図の自分が描いたマンダラを説明したときに、それはマクロとミクロの世界をあらわしており、中心には外縁の図形の転換を描いたとしています。マクロとミクロは連続しつづけ、無限に中心に向かっていくというビジョンなのでしょうか。いずれにせよ、「中心に『なにか』があり、それは永遠に続いていく」というのは、彼が保留するとした、中世キリスト教的、あるいはグノーシス主義的世界観を感じます。
それに対して、禅宗などでは複雑な図形の複合であった曼荼羅を単なる一筆書きの円で表現し、その中心は「無」、あるいは「空」であるとしました。宗教と一線を引こうとしたユングの原風景が極めて宗教的であるのに対して、三大宗教である仏教の一派の提示した世界観が極めて哲学的であることには、なにかアイロニーを感じてしまいます。
次回はユングの思考の中に見られる、「対称性」のパターンについて書きたいと思います。

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