構造主義とデザイン(3)
Thoughts

2016.12.12

構造主義とデザイン(3)

こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。
構造主義とデザインについて話す3回目です。世界共通の「常識」とは一体なんなのか、commonoという社名のデザイン会社としてはある程度考えないわけにはいかないと思ってこのテーマにしました。今回もおつきあい下さい。
前回ソシュールという言語学者の提出した、「言葉とはものにつけられた名前ではなく、他と区別するための線引きであり、それは文化によって異なる」という考え方ですが、この発想は言語だけにとどまらず、世界のほとんどあらゆる領域に適用されていきました。
そのようなソシュールの思想的フォロワーの一人が、レヴィ・ストロースという文化人類学者です。彼は南米その他の民族について調査をしていくうちに、ソシュールの思想を文化人類学に当てはめられると考えました。
どういうことか。ソシュールの説によると、ある言語でいくつかの異なる語彙のあるものに別な言語ではひとつしかないのは、「区分の選択」の問題であり、どの言語がより優れているという話ではない、ということになります(日本語のマグロとカツオに対してTunaという言葉しかないからと言って、英語が日本語より遅れていることにはなりませんよね)。
レヴィ・ストロースは多くの国を旅し、当時「未開」と考えられていた多くの「野蛮族」の風習を観察し、そこにいくつかのパターンを見いだします。そして彼の出した結論は、人間の社会はどの地域においてもある基本的な構造によって支えられており、また西洋人の考える「蛮族」の社会は西洋人の社会に劣る訳でも遅れている訳でもなく、単に異なる方向性を持っているに過ぎない、ということでした。
当時の思想の主流は、ニーチェの思想からの潮流を組む、実存主義でした。実存主義とは、人間には生きる目的や本来あるべき姿のようなものが自我とは別個に存在し、その実存に向かって向上していくことが存在意義だ、というような思想です。ストロースの時代の実存主義者のエースは、サルトルという人物でした。これは自我の外に本質があるという考え方ですから、構造主義と相性が悪くはない考え方ではあったのですが、この「進歩」という概念の認識において構造主義とは決定的に異なるものでした。
社会や歴史は一定の方向に向かって進歩しており、その中で正しい選択をし続けることこそが重要だとするサルトルに対し、ストロースはそれを、宗教が神の名において行おうとしたことを「歴史」に置き換えているに過ぎないと批判しました。西洋以外の文化が「遅れて」おり、全ての文化が西洋化して「進歩」するべきだ、というサルトルの主張を、ストロースは「いわゆる未開種族の人間が隣村の人々を『よそもの』とみなす思考パターンと全く同じ」だと言い、狭量な見方で他人を見下しているに過ぎないと言いました。自分を「文明的」で、「客観的」と見なす者ほどその偏見にとらわれる誤りを犯しがちで、サルトルもこの主観に基づいて、謝った歴史観を持ってしまったと主張します。
かくして、レヴィ・ストロースの著した「野生の思考」が、当時論争において負け知らずのサルトルの実存主義に引導を渡しました。
ストロースの思想は、私達が世界をどう見るかということに関して、少なくとも一石を投じるものではないかと思っています。実存主義が過去の者になり、構造主義が一段落した現代を私達は生きていますが、今も多くの人は、社会や人類が進歩している、という前提に沿って生きています。ある限定的な分野においてはそれは事実ですが、それに基づいて、あるグループを他の人々よりも進んでいるとか遅れているということには危険がある、ということを彼は指摘しました。
レヴィ・ストロースのたどり着いた、文化学者としての結論は、ある文化圏の人に自分たちの常識が伝わらないのであれば、その逆も必ず存在するはずであり、そのことを覚えていればみんな仲良くできるはず、というごくごくシンプルなことだったようです。
同時に彼は世界の全ての家族に共通する構造を発見しました。それは「贈与」という概念です。「自分の欲しい物は他者から贈られることによってしか得られない、それによって世界の全ての家族という制度は存続している。」とストロースは主張しました。世界には夫婦間の愛情が存在しない文化や不性愛が存在しない文化があります。しかし、贈与によって家族制度を維持するシステムは、どの文化にも共通して見る事が出来ます。
これは人類という大きな種のもとになっているのが感情や理念のようなものではなく、まさに「構造」なのだという主張につながります。人間を形作る、最も根源的な要素はこの社会構造である、とストロースは言います。これが真実かどうかは分かりませんが、人間の価値観の根源を追求していく姿勢というのは、私達も持ち続けていく必要があると感じています。
自分が持っている常識が、自分のいる環境に影響されている少し歪んだ規準なのかもしれない。僕らの持っている同じ価値観を、僕らの仕事を目にする人には共有できないかもしれない。独りよがりになってはいけない、でも僕らの価値観を投入することで、何か新しい科学反応を起こせるかもしれない。構造主義者によれば、僕らのできることは、先人のつくった枠の中で、すこしでも美しい、すこしでもおもしろい配列を探すことだけということになりますから、今出来る最適解を探すことに妥協しない制作を目指していきたいものです。
ちなみに、フランス語でレヴィ・ストロースというこの名字は、英語読みではリーヴァイ・ストラウスとなります。おそらくこの思想家の親戚のだれかがアメリカに渡り、作業パンツとしてあのLevi’s 501を開発したのでしょう。思想面でもファッションでも100年以上愛される「定番」を一族の中で生み出しているんですね。偶然なのか必然なのかはナゾですが、commonoもあやかりたいものです…。

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