2017.02.21
ブランディング(3)「変わるもの」と「変わらないもの」
こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。
「ブランディング」についての第3話です。ブランディングについての基本的な考え方がわかった上で、実践するにはどうしたらよいのかを、まとめとして考えていきましょう。
前回までの記事を読んでいただいた方であれば、ブランディングとは、「自分や自社の他と違う特別な部分」を「どう思ってもらうか」をコントロールする作業であるということが、おわかりいただけていると思います。
ブランド・アイデンティティという概念を提唱したデービッド・A・アーカーという人物がいますが、その人がこのようなことを言っています:
ブランドには、「ブランド・ビジョン」が必要である。
そのブランドにこうなってほしいと強く願うイメージを、はっきりと言葉で説明したものだ。
出典:デービッド・アーカー著 「ブランド論」
自分は、あるいはわたしたちのチームが、こうありたいという強い意志がなければ、またそれが言葉として共有されていなければ、その先のブランディングがブレてしまいます。店舗デザインとwebページ、名刺とノベルティとチラシとカタログ、こういったものが全部ちぐはぐになってしまっている会社がたまにありますが、これは、会社としてのアイデンティティが十分に制作サイドに認識されていない、あるいは発注者自身が自分たちのことを良くわかっていない、わかっていたとしても言語化されていない、という場合が多いように思われます。
そういうわけで、われわれcommonoがブランディングの仕事をさせていただく場合には、この部分の打ち合わせに相当の時間をかけます。「理解と洞察にもとづいた最適解を出していく」というとかなり格好いいですが、要はそれを怠ると「こうじゃなかったなあ」「この感じなんか飽きてきたなあ」ということに陥りがちになってしまうのです。そういうデザインをするのは、クライアント様にとっても、デザイナーにとっても楽しくないですよね。でも、一度アイデンティティが確立すると、いわば、向かうべき港が見えるようになります。「なにが我が社っぽいか」「なにが我が社っぽくないか」をはっきりさせる、これが、ブランディング実践の第一歩といっても差し支えないと思います。
これが「ブランド・アイデンティティ」と呼ばれるもので、下図の「ブランド・ピラミッド」の最上位に位置する、根本的なものです。
この部分は、会社が大きくなろうが、代替わりしようが、基本的には変わりません。普遍的なイメージで、これが会社側と顧客側で見え方が同じであれば、より成功したブランディング、といえるでしょう。このアイデンティティを、ピラミッド下の階層に落とし込んでいくことで、それを可能にしていくというわけです。
では、「抽象的ブランドメディア」とはなんでしょうか。これは「コード」「スタイル」に大別されます。「コード」とは、もともとの意味としては「暗号」とか「規則集」ということになるかと思いますが、ブランディングにおいては、確立したアイデンティティを「言語化したもの」ということになります。社是、スローガン、キャッチコピーがそれにあたります。以前ご紹介したAppleの「Think different」などは当時の企業イメージとコードがぴったり合致した好例ですね。ちなみに、ガリガリ君でおなじみの赤城乳業のコーポレートスローガンは「あそびましょ。」だそうです。これを踏まえると、同社が現在行っている商品展開が、社是にしっかりのっとったものだ、ということがわかります。
「スタイル」とは、ブランド・アイデンティティを目に見える形で表したもので、製品デザインのコンセプトなどをいいます。ダイソンの掃除機や、バルミューダの家電などは、機種が違ってもすぐに同社のものだということがわかるだけでなく、彼らが何を目指しているかもなんとなく理解できるのではないでしょうか。デザインのインパクトを追求するだけでなく、無印良品のように、無駄や装飾を省き抜くことでアイデンティティを獲得する、という例もあります。製品だけではなく、社屋や店舗のデザイン、スタッフの身なりや言葉遣い(あえてカジュアルにする、というブランディングもあります)やレシートのデザインにいたるまで、細部にもブランディングの意識を浸透させていく、ということもできます。
さらに、これをピラミッドの最下層に落とし込みます。この図では「可視的ブランドメディア」という表現が使われていますね。「メディアの利用」と言い換えてもいいかもしれません。CMや広告、カタログやwebページも、この部分に相当すると思います。commonoでブランディングのお手伝いをさせて頂く場合、ここの部分で関わらせて頂くことが多くなると思いますが、その上の二つの層をしっかり理解する、再確認するということが、デザインの良し悪しに直結する、ということがお分かりいただけると思います。
お気づきかと思いますが、ブランディングのピラミッドの下に行けば行くほど、時代や状況によって変化しやすいものになります。「可視的ブランドメディア」の部分はおそらく一定の期間での見直しや変更が必要でしょう。時代感や使用できる技術も変わってきますから、積極的に変える姿勢が求められます。逆に、「アイデンティティ」は変化しないことに価値があります。不変でなければならないというわけではありませんが、この部分の舵取りを頻繁に変えるなら、顧客は定着せず、組織は疲弊し始めてしまいます。どこに向かうべきか定まっていない状態だと、いろんな努力が「無駄打ち」になってしまう可能性が高いです。
ブランディングについて考える上で重要なのは、「変わるべきもの」と「不変であるべきもの」の両方をしっかり意識することかと思います。自分(たち)の活動の目的はなんなのか、その「どの部分」を「今」「伝えたい層に」どのように伝えるか、これがブランディングの目指すところであり、なんとなく格好いいロゴやデザインを考えることが目的ではないということは、私たちも十分に意識したいところではあります。
そのようにして的確なブランディングをしていくなら、それは企業の業績や売り上げに影響していきます。短期的にすぐ効果がわかるものもあれば、子供時代に良い印象を与えることで、その子達が大人になったときにそのサービスを選ぶようになる、というような長期的な結果もあるでしょう。いずれにせよ、自分たちのビジネスを成功させるかどうかは、(ロゴマークやCMだけではなく、顧客の印象をコントロールするという)広義においてのブランディングを意識するかどうかに、大きく影響されるはずです。
ブランディングとはそれ自体が「やれば格好いいもの」という目的ではなく、自分(たち)のアイデンティティを他の人に伝えるという目的にたどり着くためのツールと言えます。また、自分たちの中にあるポリシーやイズムというものを相手に伝えるにはどうしたらよいか、あるいはどこをどれくらい伝えるかを設計するのがブランディングにおけるデザインといえるでしょう。美学のおしつけではなく、相手にどう伝わるかの追求ということを考えるなら、それの結果として「顧客からの支持」が「売り上げ」という結果に繋がるはずですから、ブランディングは、現代において「仕事」をする上で、決しておろそかにはできないファクターだといえるでしょう。
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