2017.01.31
デザイン・シンキング(3)
こんにちは、commonoデザイナー/翻訳者のうちむらです。
デザイン・シンキングの3話目に入りました。当初は3つのアーティクルで完結する予定でしたが、もう少しおつきあいすることになりそうです…。今回は3つめのステップ “Ideate” (アイディア化)についてお話します。
前回でも少し足を突っ込んでしまいましたが、Ideate とは端的にいうと、「イノベーションを起こすアイディアを導きだす」ということになると思います。
一般的なイメージで考えれば、今までになかった革新的なアイディアというのは「ひらめき」の産物であり、幸運にもそれを思いついてしまった人、あるいはそのことをうんうんうなりながら何年も考え続けた人の執念の賜物という感じでしょう。しかし、デザイン・シンキングでは「プロセスを明確にし、テンプレート化する」ことで、そんな革新的アイディアを人為的に生産することが可能であるとしています。
そもそもイノベーションとは一体なんなのでしょうか?デザインへの支援で世界を牽引するIDEOは、このような図でイノベーションを定義しています。
言葉で説明するなら、「有用性=これは欲しいと思ってもらえること、ビジネス妥当性=収益が期待できること、技術的実現性=今の技術で実現可能であること」、この3つの条件をクリアすることが単なる空想とイノベーションを分ける要素、ということになります。
例えば、ドラえもんのポケットから出てくるひみつ道具は有用性には満ちあふれていますが、今の段階では、ビジネス妥当性、技術的実現性のどちらもないものがほとんどです。あくまでビジネスとして行うことですから、現実的であるという側面をないがしろにはできないわけですね。
これを踏まえた上で、Ideateのフェーズもふたつのステップに分けて行きましょう。つまり
a. アイディアの量産
b. そのアイディアの選別
になります。
a. アイディアの量産
前回のアーティクルでは、自分を少し未来からやって来たと仮定して、その世界にはどんなものが存在しているかを考える、という話をしました。これこそがイノベーションということになることはなるのですが、ここではもう少し具体性を増すために、3つの方向からのアプローチを考えます。
1. ターゲットのニーズを考える
これは前回行いましたね。「どれくらいの年齢層で、どこに住んでいて、どんな嗜好をもっているか」これらを具体的に考える、という方法です。
2. 流行のサービスをベースにする
今流行している新しいサービスって何でしょう?そのアイディアを自分たちが提供できるエリアで活かせないでしょうか?あるサービスが流行しているということは、その分野でのニーズやトレンドに合致しているということですから、現時点で「理にかなっている」手法という訳です。それを使わない手はありませんよね。
3. 市場規模の大きさを考える
自分が行おうとしているサービスのユーザは、そのサービスが使える範囲にどれくらいいるんだろう?という視点で考えます。例えば最近札幌のイシヤ製菓は自社施設のチョコレートファクトリーにイスラム教徒用の礼拝施設を設けました。おそらく東南アジアや中東からの観光客が増えていることへの対応だと思いますが、じゃあこれを自分が個人で経営しているカフェにも導入するかというと、それによって収益が見込めるかという問題が出てきます。逆に東京くらいの人口密集度になると、そういうニッチなサービスも生き残れる道が見えてくるかもしれませんね。
上記3つの複合技として、「〇〇界の●●をつくる」という考え方をすることも出来るかもしれません。例えばユニクロは「ファッション界のマクドナルド」でしょうし、Cookpadは「料理界のグーグル」といった具合です。自分たちが実現可能な規模、業種、スキルにあった「他分野の人気スタートアップ」を探し、それを自分たちのエリアに導入してみるなら、現実から乖離していないながらも革新的なアイディアが出せるかも知れませんね。「カフェ界のスターバックス」のような、既にあるビジネスを排除できるのも、この考え方の利点です。
b. 量産したアイディアの選別
このような方法で量産したアイディアを、最終的にしぼっていきます。「アイディアの量産」の段階では、あなたの中の冒険者、夢想家の側面が活躍しましたが、この段階ではあなたはこの事業の冷静な参謀です。次の8つの質問を通して、そのアイディアが実際に走り出せるかを考えていくのが、あなたの役目です;
1. 技術的に現実性を帯びているか。
先ほどドラえもんのひみつ道具について触れましたが、今どこでもドアを作ることには現実性はありません。あなたのやろうとしていることも、そんな非現実性はないでしょうか?ここをチェックします。
2. 違法性はないか。
他の国では合法で、非常に人気のあるサービスが、自分の国では違法という場合があります。違法の場合はヤミ事業、あるいはモグリの事業ということになってしまいますから、そもそも割にあいません。ただ、この場合気をつけるのは、「グレーゾーンを自動的に排除しない」という事です。某TV番組でよく見るように、違法、合法のラインはあいまいな場合があります。ある法律家がダメといっても、解釈によって異なることはよくある話です。タクシー配車サービスのUberはスタートアップ時にはグレーと言われていましたが、今では大成功を収めています。
3. 費用的実現性はあるか。
テスラのCEO、イーロン・マスクが宇宙事業を進めていますが、あれは彼のもつ莫大な資金があるからこそ。私達の身の丈にあった企画かを見極める必要があります。
4. ターゲット市場のニーズに合っているか。
”北極で氷を売っても売れない”という言葉があります。先ほどイシヤ製菓さんの例も考えましたが、自分の事業を起こす地域でそのサービスが「売れる」のか、ニッチすぎてサービスとして広まらない可能性はないか、考えましょう。
5. ユーザーにどう提供するのか?
そのサービスを提供する場合、物流や関税などの条件が発生するでしょうか。店舗を持たなくてはいけませんか?Webサービスやアプリであればダウンロードしてもらえる仕組みはありますが、具体的な方法を考え、決定的な障害が出て来ないか、精査する必要があると思います。
6. 過去にそのアイディアで失敗した人がいるか。
昔はそれだけでそのアイディアは排除するのがセオリーでしたが、今は世界がものすごい速さで変化しています。技術の進歩やプラットフォームの変化で、2年前までは不可能だったことができる、ということはザラにあります。逆に過去に失敗したスタートアップを当たってみても面白いことが出来る可能性はあるかもしれません。
7. ある企業の独占市場ではないか。
すでに市場を独占している企業、あるいは大きな企業につぶされる可能性があるかを考えます。まあ、イノベーションを意識してアイディアを出しているわけですから、そもそもその段階でこれは排除されているかとは思いますが、一応チェックしましょう。
8. 市場や業界が変わったときにそのアイディアは生存しうるか。
これから法律が変わることが見通せる場合や、近々そのプロダクトをなくしてしまうようなテクノロジーが出現することが分かっているなら、斜陽になるつつある分野にこれから手をだすのは得策ではないでしょう。
以上、長くなってしまいましたが、Ideate には、アイディアを量産し、それを精査するという逆のベクトルをもった二つの思考が関係している、というお話でした。実践することで、イノベーションが偶然の産物とは限らない
、ということが肌感覚でわかってくるかと思います。
最後に、冒頭考えた有用性、ビジネス妥当性、技術的実現性の合致についての面白い例をあげておきます。ドラえもんの19巻に、「おこのみボックス」というひみつ道具が出てきます。「四角いものならなんにでもなる」というアバウトな機能の道具ですが、それが、以下の画像のようなものになります:
…スマホがしていることを完全に再現してますよね。すごい。音声認識で操作する感じ、ホームボタン一個のデザイン、wi-fiかbluetoothのようなもので遠隔入力する機能も付属しています。
こんな風に、有用性は認められながら、技術的実現性やビジネス妥当性がゼロだったプロダクトやサービスが、少し先の未来では3つの円が重なっている、ということもあり得る話です。リアリストとしての目線を持ちながら、ドリーマーであり続けることが、イノベーションのための資質と言えるのかもしれませんね。
次回は “プロトタイプ” についてお話します。
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